アーティスティックなデザイナーズマンション
「C八王子」C棟オーナー有志3名がC社を相手取って、所有する部屋(専有部分)の明け渡しと使用損害金の支払いを求めた裁判で、いよいよ判決が言い渡されるのである。
「主文」。
M裁判長が口を開いた。
原告であるオーナーたちは、それに続く言葉を固唾をのんで待ち受けた。
「一被告は(中略)各原告名に対応する所有分と記載された各建物を明け渡せ」「被告は(中略)各原告名に対応する「認容金額」欄記載の各金員及び右各金員に対する平成4年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え」勝訴一不法占拠者を追いつめた現場主義その瞬間歓喜がオーナーたちに広がったのは。
いうまでもない。
全面勝訴の判決である。
しかも、いずれも「仮に執行できる」としていた。
裁判の争点は、C社の占有権限(法律用語では「権原」と表記する)と管理権限の有無にある。
M裁判長は判決理由でC社の主張のすべてを否定していた。
それは、C社の不法占拠を証明するものであった。
「仮執行」つき判決は、不法性をより強く認定したものといえた。
仮執行つき判決であるから、たとえ被告であるC社が控訴しても、判決の効力を執行できる。
もし、執行の停止を求めるならば、物件の評価額の3分の一以上の保証金を積まなければならない。
一般的に、金員の支払いについては仮執行つき判決は多いけれど、建物の明け渡しに仮執行がつくのはきわめてまれである。
それだけC社の占拠を不法性の強いものと裁判所は見たのである。
92年2月16日の提訴からちょうど2年の長丁場を、オーナーたちは果敢に闘い抜いた。
この種の裁判では普通、裁判長は和解を提案する。
しかし、あくまでC社の不法占拠を追及し明け渡しを求め続けたのである。
ようやく勝ち取った勝訴の判決に感慨は深い。
なによりも併行して行われていた他の裁判へ好影響が期待された。
C社との闘いでオーナーたちはこれまで、このC棟裁判を含め4つの裁判を提起していた。
1以上の4つだ。
一つの物件に対してこれほどの裁判を提起した例が他にあるのかどうか、寡聞にして知らない。
「これほどの裁判を起こさねばならなかったということが、C社問題がいかに解決困難なものであったかの証左でもある」というTは、これを「C社包囲網」と表現する。
C棟裁判の判決直前、さらに包囲網は強化された。
1年前に発足した「新C管理組合」を原告に、A・B・C3棟共用部分の明け渡しを求める裁判を提起したのである。
前掲のA棟裁判、C棟裁判はオーナー有志による所有する部屋、つまり専有部分の明け渡しを求める裁判であった。
3棟オーナー有志とA棟管理組合が共同参加していたとはいえ、共用部分月破産管財人による専有部分および共用部分の明け渡し請求。
「解決の基本の道筋を明らかにし、大筋のレールを敷く作業である」C社の不法占拠を許したままオーナーの自主管理・運営はありえない。
その不法性を裁判で明らかにしてこそ、将来的な展望も開ける。
和解などという下手な妥協を許さず、明け渡し裁判を貫徹したのも、この信念があってこそである。
裁判の争点は、C社の占有の合法性および管理権限の有無である。
C社がRのダミーとして登場し不法占拠を開始した当初、Rとの賃貸借契約を解除したオーナー側はC社の管理・運営権の法的根拠を問題とした。
これに対しC社は、Rから「営業譲渡」を受けたとして管理権の承継を主張した。
ならば、とオーナー側が「Rの債務承継の責任」を主張する。
明け渡しについては管財人が請求の主体である。
本来共用部分を管理するべき統一管理組合が新たに裁判提起して初めて、十全となるものだ。
ここに完全包囲網が完成した。
Tによるこう説明する。
「C社に、もはや後はないぞ、と不法占拠の早期断念を迫る狙いがあった」こうした裁判闘争を最先頭で牽引してきたのが、C棟裁判であった。
Tは、裁判の意義をRとの間で取り交わしたという「債務引受拒否通知書」をオーナーに送付して、責任を回避しようと試みた。
回避が通用しないと知るや沈黙を決め込み、ついには管理権承継の主張を撤回した。
さらに3棟代表者による「公開質問状」で占有と管理権限の所在を問われると、回答を拒否。
管理費の支払いの要求を繰り返すに止まった。
C社は、オーナーとRの契約関係は賃貸借契約でなく、オーナーと共同事業を営む「共同経営」であり、その共同経営者から管理の委託を受けた「指定業者」である、だから管理権がある、と主張する。
Tは、これをこじつけであると断じた。
93年2月5日に行われた第2回口頭弁論を前にも見られた。
そうして裁判に入るや、「共同経営論」なる奇妙な論理を持ち出してきた。
オーナーとRが交わした「土地付区分建物売買契約書」の第2条2に次の一節がある。
「甲(注オーナー)は、本契約によって本区分所有権を取得したうえ、これを別紙賃貸借契約書にもとづき乙に賃貸し、運営会社によって「C」として一体運営されることをあらかじめ了承する」右の「一体運営」という文言にC社は目をつけた。
同様の文言が「C管理規約」(この「管理規約」は管理細目も定められておらず、きわめて不十分なもの)そもそも「一体経営」から「共同経営」を引き出すところに無理がある。
「共同経営」は、「出資による財産の共有と損益の分担」という要素があって初めて成立する。
しかし問題の「賃貸借契約言」には、「損益の分担」どころか毎月定額の賃料を保証すると調われている。
「一体経営」は集中管理システムという建物の構造上の問題に加え、Rがより多く提出した準備書面で所論を展開している。
「仮に百歩を譲って、原告(注オーナー)らがRとの間で「共同経営」であるとしても、Rが倒産し、また破産者となったことによって、「共同経営」の関係を解除できない理由はまったくない。
詳述するまでもなく、倒産もしくは破産者は、自立的に共同経営上の権利と義務を履行できないからである。
したがって、何ら独立した占有権限を有しない被告Cが、単なる「指定業者」の立場で、原告らが所有する本件各建物を占有しつづけることができないのは法的にも明らか「指定」はRの破産で法律上終了しているという指摘だ。
C社は、主張を変更した。
オーナーとRとの契約は「組合契約類似の混合契約」であり、業務執行権者の選任につき「包括代理権」を与えたもの、というのである。
Rからの指定はそのまま「共同出資者である」オーナーの指定を意味する、という論法である。
「Rとの契約関係は、管理の委託が付随する賃貸借契約であって、「共同経営」ではありえない」(前掲の準備書面)と見て取った。
これに対するC社の主張は「「類似」であるから、法律上ぴったりしなくてもよい」これには、もはや反論する価値もなかった。
それでも、C社は裁判上占有と管理を維持するのに執勧だった。
公共料金の支払いをもって管理の「実態」を示そうとするなど法律論争を避ける一方、第2回口頭弁論では「反訴状」を提出。
オーナー側が入居者から直接徴収した管理費を「不当利得」として、逆にその金を支払うよう申し立てた。
なにやかやと主張して、裁判を引き延ばす作戦だ。
少なくとも裁判が継続している間は、不法占拠するA棟のホテル運営を通じて巨額の収益を享受しつづけられるからである。
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